柔道部にはこわーい指導者がいた。九段高校を卒業して二年。柔道三段で、でっぷりと太った佐藤守弘という先輩であった。オーソン・ウエルズのような顔をしていた。青春時代とは己の精神と肉体の限界に挑戦することである、が佐藤先輩の哲学であった。だから、しごくことしごくこと。血も涙もない鬼将軍のようであった。われわれ部員は柔道をやっているというより、柔道着を着て、体力テストをやっているようなもんだった。マラソン皇居一周三十分以内。一分でも遅刻するとまた走らされる。靖国神社の石畳の上でうさぎ跳び、腕立て伏せ、腹筋運動。悲鳴をあげ、男泣きに泣きながらの稽古であった。
入部して早々に紅白試合があり、私は小林さんという三年生に跳ね越しで投げられたのだが、受け身を取らず、一本にはならなかったのだが、その時、ボキッと音がして、私の左の鎖骨が折れた。が、佐藤先輩はそのまま試合を続けさせた。激痛にボーッとしながら、右腕だけで試合を続け、私は勿論負けた。そして三ヶ月間病院通いとなったが、柔道部を止めようという気にはならなかった。中山さん、武田さん、嬉しい仲間。そして笑うと白い歯がきれいな佐藤先輩も、稽古を離れるとやさしい兄貴であった。
夏休みになると合宿をする〜 の続き(ここからがクライマックス!)は本を買って読んでください。OBにはお馴染みストームの話も出てきます。